ボスは迷文家シリーズ

頻発する詐欺に注意!


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経理担当の社員が泣きそうな顔で私のところへやってきて言った。「小野沢さん、電話料金を大至急払えと強く言われているんです。もう私はどう応えたらよいのかわかりません。」 彼女は続けて言った。「一月ほど前に、小野沢さんから明細がないのだから支払う必要はないと言われていた件です。」

彼女が言う通りだった。一月前に支払小切手の山をもらってサインをしていたら、一件だけ請求書のないものがあった。内容を問いただすと、大手の長距離電話会社への支払漏れで、取りたて会社が代行取りたてをしているのだという。その時の電話で彼女はすぐに払うと約束をしていたのだった。電話は彼女がインティミデートされるような、巧みな話し方であったに違いなかった。この時請求書や明細書のないものは支払わなくてよいと指示をし、先方の一方的な根拠だけで、私がサインする小切手を用意するものではない、と彼女に対してきつく注意していた。

私は受話器を耳にあてた。先方の言い分は、スプリントという大手長距離電話会社へ対して六百ドルの支払漏れがあって、それが最近判明された、期限がすぎているので大至急支払うように、という内容であった。前回の電話の時に調べたが漏れは見つからなかった、と説明。それに対し相手は、そうでなくスプリントが明細に入れるのをミスしてしまったものだ、と説明。私はそれならばスプリントが謝罪の手紙を添えて請求してくることが筋だろう、と対応。それに対し、その分の取りたてを我が社に依頼してきたのだ、と食い下がってくる。それならば、コピーでもよいから明細を送れと応え、私は話していても時間の無駄だと言って、こちらから電話をきった。

この時点で私はこれは詐欺事件であると確信をもった。当社の経理の担当者が小切手まで用意したように、支払漏れという言葉に反応し、すぐに支払ってしまう人達が多くいるのだろう。特に、議論を英語で進めることのできないような人達は、キツネにでもつままれた気分で支払ってしまうに違いない。正に当社の経理の女性がそうであった。アメリカ人でも、誠意の人そして脅しに弱い人達は、深く考えることもせずに支払ってしまう。こういう詐欺事件が他にもあるのだ。

取り立て会社から再び電話があった。今度は怒っている口調だという。私は電話に出た。回線の向こうからはドスのきいた声で、此方を威圧しようとする支払要求が聞こえてくる。真に受けて聞いていると恐ろしいが、先方が芝居をしていると思えば逆にそんなことをしてまで小銭を稼ごうとする人間性が悲しく思えてくる。私の回答は簡単だった。この会話をテープに録音している。この取り立てが詐欺事件を思われるから、ワシントン州政府の公正取引委員会に持込むつもりだ。同時にスプリント社の消費者窓口相談係に電話をして、先方のアドバイスを求めるつもりだ。

明細はないけでど支払いをしろ、というのは子供むけの脅しと変わることがない。しかし仕事が忙しくかまっていられなかったり、心理的に英語が不得手という負い目に立たされたりすると、面倒くさいからと言ってすぐに支払ってしまうのだろう。そういった人間の弱みにつけ込んだ詐欺である。二度目の電話をきってから既に一年も過ぎたが、この取り立て会社からは、その後何も言ってきていない。

アメリカには詐欺事件が日常茶飯事におきている。注意していないと気がつかないうちにやられてしまう。旅行客を相手にしているレストランで、クレジット・カードのチャージを二度に分けてプロセスされたことがあった。食事は一度だけだった。クレジットカードの明細に目を通していて、一度目の重複請求はミスだと思った。しかし翌年同じことがおきた時は、明細に目を通さづに合計金額を支払ってしまう人達の盲点をついた詐欺事件であると思った。クレームをつければ、間違って二度通してしまったと言い訳するのだろう。シカゴのオヘアー空港近くのレストランで二年に渡り二度あった事件である。

電話で寄付を求められて、支払うと寄付の団体ではなかった、、、。こんなことも多い。アメリカ人のお年寄り女性がよく引っかかる。ごみ箱からクレジットカードのコピーをひろいメール・オーダーに使う事件もある。署名の必要がないからだ。名前、番号、有効期限だけでカードはアクセプトされてしまう。請求がカード所有者に届く頃は、荷物が配達された場所はもぬけの殻。私は知らないうちに4300ドルの買い物をされてしまったことがあるが、カード会社は請求をしてきた店との間で決着をつけたようだ。

私の会社は一般消費者相手にも商品をメール・オーダーをしている。ひと昔前までは、着払いへの支払いに個人の小切手もアクセプトしていた。一度だけの経験だが、宅配会社のUPSが荷物と引き換えに受けとって来た小切手が不渡りとなった。何度やっても同じ結果。相手方に電話をかけると回線は不通になっている。こちらはシアトル、相手はニューヨーク。かんたんに調べに行くことすらできない。まんまと引っ掛かってしまったといえる。

アメリカは犯罪先進国。ありとあらゆる事件が日常茶飯事におきている。しかし銃をつかった事件などがあまりにも目立ちすぎるので、寸借詐欺的な事件などは蚊にさされる程度にしか受け止められていない。犯罪としてもプライオリティーは低いのだ。寸借詐欺にあうことは、蚊に刺された程度でしかないといえる。蚊に刺されてしまったら不幸であったとしか言いようがない。しかし殆どの場合、被害者の側に、被害を受けたという認識がないのだから困る。騙されたということは、そういうことなのだろう。複合犯罪の国アメリカは、爆弾テロ事件、ドラッグの水際どめ、銃をつかった殺人事件などで手がまわらないのかもしれない。少なくともどこの刑務所も犯罪者で満杯。これ以上捕まえても投獄する場所がないのだ。だからよほどの凶悪犯でないかぎり、犯罪者たちも彼等は仮釈放でどんどん出獄し、新たな犯罪を繰り返している。当面、寸借詐欺からは自分で自分の身を守るほかないだろう。

小野沢昭志
1999年10月2日

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