ボスは迷文家シリーズ


Vol.9


犬はイラヌ
知らん顔犬
ロストドック

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犬はイラヌ

犬はイラヌというのがわが家の女房殿の厳命であった。決して犬が嫌いなのではないのだが、世話は大変だし、そして臭う。更にはぬけ毛もキタナラシイので絶対にノーと言い張ってやまない。元来イヌ好きの僕は子供は犬と共に育つべきと宗教的に信じているので、犬なしの生活は子供の教育上片手落としか思えないでいた。

そんなことで、わが家のガキ共は全員イヌのない家庭で育った。ヤツラがどうしようもないのは、決してティーンエイジャーというからではなく、犬がイヌの生活環境に起因していることは間違いない。上の姉二人に負けず劣らず、三女のアリサがこれまた悪ガキで困っている。これも犬イヌの生活が悪いのだ。このワルに振り回されてつかれ切ったイヌ駄目女房殿が−藁をもつかむ気持ちとでもいうのだろうか−イヌは子供の為にイイーヌーといいだした。今ころ気がついても遅いこの馬鹿、と言ってやりたい気持ちを抑えた僕は、彼女の気が変わる前に犬の養子縁組手続きを済ましてしまった。

わが家に嫁ぐ新メンバーのオイヌ様は、ドッグレースを引退したグレーハウンドの成人犬。競馬ウマと同様にレース生命の終わったレース犬を待つのは死刑のみ。唄を忘れたカナリアの運命がレース犬にもあったのだ。それではあまりにもカワイソーと心を動かされたのが犬駄目女房殿なのだが、そこはさすが我女房。子供が良く変わってくれるのではないか、と言う期待的打算がチャントはたらいている、と思う。だけど、この時点の彼女には、グレーハウンドのウンコの大きさが未だ分かっていない。浅草から隅田川越しに見えるあのジャイアントウンコ(アサヒビールのホップの泡)ほどの大きさはないまでも、僕は、かなり大きくてそれに臭いもナマアタタカイのではないかと心配している。だけど、それも良し。待ちに待った犬だ。臭いがなんだ。ウンコがなんだ。いま大切なことはわが家に犬を迎えいれることでしかない。全てはその後の問題でしかない!

明日、イヌを引き取りに行く。僕の気持ちはソワソワしはじめた。犬の日。The day of dog. 英語のスラングで約束を守らずにスッポカスことを。Don't dog on me(スッポカスなよ)とかHe is a dog(彼はスッポカシ屋だ)とかいう。犬の引き取りをスッポカスとは、Dogging on dog。 といってもダジャレにならないし、それでは犬を竹犬の友として育った僕がやるべきことではない。必ずひきとりに行くゾ。待ってろヨ、犬。

1995年5月10日

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知らん顔犬

犬のイル生活が再びはじまった。信じられない。まるで夢の様。この一週間というもの犬を中心に生活がまわっている。正にお犬様といった具合だ。

大学を卒業するまでの日本では、僕の生活で犬ナシということは考えられなかった。ヨチヨチ歩きの頃から中学までは雑種犬のベス。ぼくの母になつき、彼女が脳溢血で入院し医者から見放された時に身代わりの様にして死んでいった。中学生時代はジャーマンシェパードのジョン。当時は、テレビシリーズの名犬リンチンチンに影響を受けてかシェパードがポピュラーだった。 誕生間もなくの幼犬から育てあげた。上板橋にある立教大学のグラウンド(現・城北公園)まで連れて行きジョンとレスリングをしたことが今でも僕の脳裏を頻繁にかすめる。

高校から大学にかけては3匹の犬を同時に飼っていた。都電で通学をしていた高校生の頃、毎朝、停留所まで僕を見送った唖の忠犬(本名)がいた。冬の日には帰宅して玄関先に脱ぎおいてある僕のでか靴に入りこみ身体を暖めようとする。ビッコのチビは三本脚で跳ねる様にして歩く。僕の心に強く残っているのは、何処にでもついてきて何時まででも僕を待ち続けた名犬(本名)だ。この名犬が示した僕に対する愛情たるやストレートで純真無垢なものとしか言いようがなかった。こちらが関心を示せば示す程、それ以上に愛情を投げ返してくる。犬にまつわる心温まる思い出は尽きることがない。犬に背かれたとか裏切られたとかいった事は記憶にゴザイマセンし、ましてや犬に知らん顔された事などは絶対になかったといいきれる。でも、全ては想い出の中の出来事。良い事だけしか残ってないのかもしれない。

一週間前にわが家に入籍した元プロ競争犬のバンディットは、しらん顔ばかりしているしらん顔犬だ。僕の犬に対する考え方は、完全に覆えされてしまった。遊んだり跳ねたりの犬らしい愛敬のある仕草や余計な事は一切しないし、喜びも表わさない。これも本職のレース犬としてのみ教育された為であろうか。こちらが呼んでも横目でチラっと見てすぐ無視をする。それでいて関心が欲しい時などは、自分の方から寄ってきて、関心のないふりをしながらこちらの関心を求める。ネコではないのだから、といっても犬耳東風。気の向かないことを押し付けるとすぐにスネルし、それがまた道にいっている。その時の目つきたるや、人間のスネ方と変わることがない。図体がデカイだけでなく、態度もデカイ。痩せてはいるものの、大きさはシェパード以上。座り込んだら動かなくなるので、起しあげるのが重労働。はがい絞めにして持ち上げなければ、スネテ後座摺をする。スキンシプのトレーニングにはこと欠かないと思ってやっている。

バンディットにはミラーという苗字がある。きっとミラーさんが登録したのであろう。犬に苗字姓名があるところが面白い。バンディットは、猫に対しては無関心。三匹猫のわが家では大歓迎だ。有難いことに、猫の方でも裏庭ウイルダネスのアライ熊といつも適当にやっている位だから、犬あたりでは驚きもしない。だけど、そんなバンディットもベランダや窓辺にくるリスを見るとダッシュする。これはリスがレースで使われる玩具のウサギに似ているからであろう。しっかりと型にはめられた性格だ。先は永いので、気長に解型してあげたい。根はマジメな犬。今の僕は、こんな犬ソナリティーすらも可愛いと思っている。 

5/16/95

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ロスト ドッグ

初めてSidetrakのオフィスにBanditを連れて来た時、頭が首輪から抜けて逃げられてしまった。まる一日中行方不明。僕は事務所の隣を通るグリーンリバーの川沿いトレイルや周りにはり紙をして、善意の他人からの通報を待ことにした。

エスプレッソスタンドのお姉さん:通りを走り渡ってきてセブンイレブンの方へ駆けて行ったの。その時、何台もの車に轢かれそうになって(朝のラッシュ時)パニックをおこしてとても怯えていたわ、かわいそうなベイビー・・・
ホテルのフロント嬢:見かけなかったわねー。(もう一人に)あなた見た? みてないわー。
通行人:ハイウヱーの交通量に怯えていたのを目撃したと証言。
セブンイレブンの店員デイブ:見なかったけど分かったら連絡するよ。
あちらこちら、尋ね回る僕だった。

3時頃になって、駐車場をストランダー通りに向かったと、セブンイレブンの店員デイブから通報がはいる。その後すぐにエスプレッソ姉さんからも、怯え乍ら通りを渡って行ったと通報。その10分後に川沿いのトレイルでジョギングをしていたお姉さんにあえなく捕獲の身となり、無事戻された。イトも簡単。拍子抜け。はり紙と通報依頼はテキメン効果。ジョギング姉さんの証言:Banditはトレイル沿いの事務所を探していたみたいだったワン。

レース犬なので、疾走(時速60km以上)した後、疾走(時速60km以上)した後、気がついた時には、遠くまで行過ぎて帰り道が分からなくなる。外では必ずリーシュにつなぐ様にと引き渡しの時に注意を受けていた。パニックをおこして首輪から抜け、無我夢中で駆け出したのだけれども、道路に出ることは初めての経験。行き交う車にことさらパニック。道路の反対側で、一日中ずっとトレイルとオフィスを探していたが見つからず、心をきめて怯えながら渡り戻ったのだ。

失踪前の朝8時頃に川沿いのトレイルを僕とジョギングをした。通りを事務所側に渡ってからトレイル沿いのオフィスを探し回ったのだろう。パニックをおこしたのは僕のオフィスへ入る前だったので、場所の記憶は無きに等しかった筈。だけど、朝のジョギングの途中、トレイルでトイレした。にほいが一つの頼りであったことは疑うまでもない。名犬をひとつ、イヤ名言を一つ:子、いワンく詠まん、トレイルのトイレに不快なshonしても 深いワケある朝一のピー。

夕方、散歩かたがたBanditを連れて郵便局へ向かった。余程こわかったのだろう。通りには近づきたがらない。遠回りをしてトレイルを行く。すると行きかう人々皆が皆、Bandit戻ったの、と声をかけてくる。今日も何度もHi Banditと挨拶された。勿論、はり紙は戻った後その日のうちに剥がしておいた。8時間程の行方不明で有名になったわけである。サイドトラック新入社犬Banditの初出社の日の出来事であった。ワンだふると云うなかれ。

1995年5月25日

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